サラダ記念日から
昨年末に教科書会社から依頼を受けて、俵万智の「方言のクッション」というエッセイの指導案を頼まれて書いていたのを思い出した。自分の作った指導案というのはこそばゆいばかりであるが、その導入として『サラダ記念日』28首から三首を生徒に選び出させるというのがあったので、ここに列挙する。近く授業で試みてみるつもり。生徒はどんな三首を選ぶのだろう。ここの読者で三首を選ばれた方があればお教え願いたいのだが。なおその指導案については東京書籍の指導書のCDに掲載されています。
1捨てるかもしれぬ写真を何枚も真面目に撮っている九十九里
2寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら
3向きあいて無言の我ら砂浜にせんこう花火ぽとりと落ちぬ
4沈黙ののちの言葉を選びおる君のためらいを楽しんでおり
5思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
6気がつけば君の好める花模様ばかり手にしている試着室
7寒いねと話しかければ寒いねと答える人のいるあたたかさ
8真夜中に吾を思い出す人のあることの幸せ受話器をとりぬ
9君を待つことなくなりて快晴の土曜も雨の火曜も同じ
10まちちゃんと我を呼ぶとき青年のその一瞬のためらいが好き
11ツーアウト満塁なれば人生の一大事のごと君は構える
12咲くことも散ることもなく天に向く電信柱に吹く春の風
13やさしさをうまく表現できぬこと許されており父の世代は
14手紙には愛あふれたりその愛は消印の日のそのときの愛
15書き終えて切手を貼ればたちまちに返事を待って時流れだす
16ふうわりと並んで歩く春の道誰からも見られたいような午後
17「そのうちに」電話する気もない君に甘えた声で復讐をする
18今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海
19愛してる愛していない花びらの数だけ愛があればいいのに
20親は子を育ててきたと言うけれど勝手に赤い畑のトマト
21奪い合うことの喜び一身に集めてはずむラグビーボール
22この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日
23缶詰のグリンピースが真夜中にあけろあけろと囁いている
24誰からも忘れ去られたような夜隣の部屋にベル鳴りやまず
25なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き
26水仙のうつむき加減やさしくてふるさとふいに思う一月
27思いきり愛されたくて駈けてゆく六月、サンダル、あじさいの花
28自転車のカゴからわんとはみ出してなにか嬉しいセロリの葉っぱ
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